就活と採活と生活

採用広報・広告を創る立場から就活のあれこれを書いてます。

メンバーシップ雇用

就活中の人はもちろん、来年から社会人という人も多いと思うので、今日は入社後の話をします。
内定をもっている人は入社後の世界に夢を膨らませていることでしょう。ぜひ、新しい世界を楽しんでほしいと思います。
さて、企業に入社するということは、その会社のメンバーになることです。メンバーになると、与えられた職務を遂行する義務を負います。また、職場内での人間関係など、仕事をするうえでの環境にも充分な配慮が必要です。企業では職場の空気を乱す者に対する許容範囲が狭いことは覚悟しておくべきです。ちゃんと挨拶をしないとか、まったく敬語が使えないとか、そういう「個性」は受け入れてもらえません。
入社して1ヶ月すると初月給です。アルバイトとは違って本当に嬉しい瞬間です。両親に何かプレゼントをするという人も多いでしょう。新人研修の後は、OJTなど先輩に習って仕事を覚えていき、やがて一人で得意先などを担当するようになると、そこでの業績は自分の業績になってきます。成果主義を採りいれている企業が増えていますので、同期より成績がいいと、当然「職能給」が気になってきます。「今度の昇給は、あいつより絶対俺のほうがいいはずだ」と思っていたら「あら?」ということがあります。そうなると「俺のこと人事にちゃんと伝わっていないのでは?」「上司が評価してくれてないのか?」とか、不安や不満を持つようになります。「3年で辞める」という本がありましたが、これは、日本のメンバーシップ雇用というのが大きく影響しているように思えます。先日、これを指摘されておられる人事向けのブログをTwitter経由で発見しましたので、ご紹介します。

■日本的処遇・労使関係の特徴


濱口(2009)によれば、日本的雇用慣行の世界的に見た大きな特徴は、職務と結びついた雇用ではなく、組織へのメンバーシップ雇用でした。たとえば、採用でももっとも重要な「新卒採用」の場合、職務を特定したうえで定員を設定するのではなく、組織内のいかなる仕事もこなす可能性のあるメンバー(総合職)や、組織内のいかなる事務作業・補助業務もこなす可能性のあるメンバー(一般職)というようなかたちで、明確な仕事の定義をすることなく、メンバーとして学卒の新人を受け入れるという形態でした。


そこで、日本の大企業を中心とする賃金・処遇制度の特徴について見てみましょう。濱口(2009)も指摘するように、組織へのメンバーシップ雇用を中心とする日本企業においては、職務と賃金をリンクすることは困難です。よって、賃金は担当職務とは基本的に切り離されていると考えるのが自然です。


賃金が職務に基づいて決められるわけではないので、その代わりに用いられる代表的な賃金決決定基準として、勤続年数や年齢が用いられます。どれだけ組織のメンバーとしての実績があるかという部分と、年上かどうかという基準が大きいわけです。もちろん、それだけでなく、こういった年功的な賃金をベースとしながらも、人事査定の結果が加味されて、本人の能力や貢献度に応じて賃金に差がつくように設計されています。


人事査定・人事評価は、アメリカなどでは業績評価(performance appraisal)といいますが、これは評価が職務とリンクしているためです。いっぽう、職務を人事管理の機軸としない日本企業の場合、職務給ではない属人的な賃金に貢献度や能力に応じた格差をつけるために、より広範な従業員を対象に、業績のみならず、本人の就業態度や職務遂行能力も含めた総合的な査定が行われます。つまり、メンバーシップ雇用という枠組みの中、どれだけ本人が、組織の一員としてふさわしい態度や行動をとっているか、そして実際に組織に貢献しているかが総合的に見られるわけです。

(文献:濱口桂一郎 2009「新しい労働社会―雇用システムの再構築」


人事評価が自分の職務とリンクしないというのは、就活している学生にとっては意外な話かも?これは、すごい日本的ですね。上記の通りだと思います。特に大企業では、ジョブローテーションを採用している企業が多いのは、これを裏付けている証拠です。人事異動がある以上、その職務に基づいた賃金というのは厳密には難しいはずです。だって、例えば、入社5年目で営業部から総務部に異動すると、何もわからない「総務1年生」から再出発しないといけなくなりますよね。5年間の営業部での評価は、総務部に所属した時点でゼロになってしまいます。そうなると職能査定についてはゼロから評価するしかない。
また、人事異動がなくても日本の企業では「職能」だけで待遇や給与が決定されることはない。「職人」である前に「組織人」としての「能力」を重要視しているからです。

学生の就職意識調査でベスト3に入る「自分のやりたい仕事ができる会社」という基準で、就活をしても、一応希望職種は聞くが「君の場合まずは、この部署で経験を積んで」ということは、よくあることです。もちろん、例えば1年後には希望職種に就く人も多いのですが、必ずしも全員がそうなる保証はありません。その時の適切な人員配置を考えると、どうしても、その部署で頑張ってほしいといわれることも結構あります。でも「本当は商品開発希望だったのですが、いつの間にかもう営業10年目です(笑)」という社員の取材をしたことが何度もあります(でもほとんどの方が、今の仕事に誇りをもってやっておられます)。こういうことも充分起こり得るということを考えた上で、「やっぱり、それでもこの会社がいい」と思える企業研究をしていくことも大切だと思います。でないと「こんなはずじゃなかった」ということになります。

そういう意味では本当に企業の情報は仕入れておいたほうがいいです。自分の興味のある職種だけではなく、いろんな職種も見ておくことをお薦めします。他の職種を見ることで逆に自分のやりたい職種が見えてくることもあります。またIR情報も必見です。これは嘘を書けません。
就職活動とはいいますが、職業体験のない学生がプロの職を見極めることは至難の技です。というか不可能です。だから、結局は「就社」になる。だから大企業志望なんですね。「商品開発に配属されないなら僕は辞退します」とまで言い切れる人は別ですが。